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小説 親孝行関連法案

憲法を変えるので国民投票するとか言っていたが、仕事で忙しくそれどころではなかった。
憲法は変わったらしい。
今朝仕事に行く前にテレビを見たら「憲法が変わって家族条項ができたので、親孝行関連法案ができる」と話していた。
「親孝行関連法案?なんじゃそりゃ」と思ったが、仕事が忙しくてそれどころではなかった。

ところが、それから数か月して、母親が入っている福祉施設から手紙が来た。
「親孝行関連法案に関係し、あなたのお母さんの福祉施設入所を再検討しますので来園してください。来ない場合、一方的に長期帰宅を行います。」
との内容だった。なんだかよくわからんが、長期帰宅って何だ?
認知症でわがままな母親が長期帰宅なんてしたら困るから、施設に行った。

施設の職員は言った。
「憲法で家族は大切にしあうものと決まりました。それに基づいて親孝行関連法案ができました。あなたの親孝行を評価表で再評価いたしました。それで、あなたは親孝行が足らないとの評価がでました。あなたは憲法違反である可能性があります。」
「なんだって。親孝行が足らない?足らないから憲法違反?私が?」
「そうです。そう決まりましたから、この法律に反すると罰金年間50万円か懲役2年以下の罰則が適応されます。」
「50万円か懲役2年?」
「はい。あなたの生活には、まだまだ親孝行する余裕がある。週に2日の宿泊サービスの他5日、あなたはお母さんを家で面倒みなければなりません。」
「だって認知症ですよ?」
「認知症でもあなたの顔はわかるし、インスタントラーメンくらい作れます。あなたが面倒をみなければなりません。来週の日曜日からです。」

私は目の前が真っ暗になった。
「憲法違反?親孝行関連法案違反?毎年50万円の罰金?2年の懲役?」
母親と私は子供の時から折り合いが悪かった。
母親はわがままで、一方的で感情的だった。人の気持ちを無視して、自分の気持ちを押し通そうとする。聞き入れられないとののしる。愚痴る。それもしつこく何度でも言う。子供の時から俺は耐えてきたし、大人になってからは、こっちがののしるのを我慢してきた。
ののしれば、ののしりかえされて、限りなく不愉快な思いをするのだ。

次の日曜日から母親との生活を始めた。
恐ろしいストレスだった。
細かいわがままを限りなく母親は言って、かなえられないと、限りなく愚痴を言い、私をののしった。

仕事で疲れ切ってかえって来るのに、何のためにこんな苦労をしなければならないのか?
憲法のせいだ。憲法の家族条項のせいだ。

同じ悩みを抱える職場の人間と話した。

「あれはね。福祉の予算を切るためだって話だよ。福祉施設で人員をカットして、日本中で介護とか福祉支援とかの予算を切っているらしいよ。」
「余った金は?どこに行く?」
「公共事業の拡大。無駄な道路やダムを作ってゼネコンが儲ける。軍事予算でアメリカで余ったオスプレイをもっと買ったりするらしい。あと海外の大企業の株を国が買って損したりしているらしいよ。」
「何なんだ。それは。」
「あと金がある人間にはサービス満点の施設が用意されているらしい。介護付き福祉マンションみたいなやつ。」

おれは近くの高速道路を見て、おれに忍耐が金銭に変わって、高速道路の橋脚になっていくように思えた。

「くそやろう」俺はつぶやいた。
「国や憲法や法律を作った奴に、俺と母親の長年の親子関係の何がわかるんだ。俺がどれだけ忍耐してきたかわかるんだ。俺と母親の長年の苦しい関係を改善しろと何で国に命令されなければならない?親子は助け合わねばいけないという安易な言葉で、簡単に解決できると何で言えるんだ?これを決めた奴に俺の悩みの何がわかるんだ?」俺は長年の母親のわがままを思い出して憎悪に近い感情が込み上げてきた。
この気持ちを国が勝手に、「変えろ、我慢しろ」なんて言える権利があるんだろうか?
長年の逃げようのない、仕方のない苦しみに対して。
俺の権利を守ってくれるものはないのだろうか?
このままストレスがたまって、俺が母親を殺したらどうなるだろうと思って、ぞっとした。それだけは避けたいと思った。

そうした悩みを知人に話すと「ああ、刑務所では、囚人は、企業のために安価で働かされるらしいよ。その分の儲けは、また金持ちの懐に入るんだろうな。」と言った。
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by isehyakusyou | 2016-09-05 21:52